Xamarin社の歴史(Microsoftによる買収まで)

クロスプラットフォーム開発ツールの Xamarin (ザマリン) についての記事はよく見かけるのに、
Xamarin社の歴史についての記事は少ない気がしたので、
ここにまとめようと思います!(現在はXamarin社は、Microsoftに買収され、Microsoftの一部となりましたが!)

途中で、(Attachmate社に)買収された翌週に全員解雇とか波乱万丈な感じなので、コレを読んだらもっと Xamarin愛が膨れると思います!

( *゚▽゚* っ)З「Xamarin社(会社)が、Xamarin(製品)を、開発していたのよ!製品名と会社名が同じだったのね」 first-xamarin
↑初期のXamarin社の写真 (from ミゲルによるブログ記事)

(今回、この記事を書くにあたり、Xamarin創業時からメンバーだった [榎本さん] というかたに、当時の話を聞いています。Xamarinの「中の人」!ありがとうございます)

このエントリーをはてなブックマークに追加

登場人物

Xamarin社は、ふたりの創始者がいます!
企業家のナットさんと、OSSデベロッパーのミゲルさんです!

写真 説明
img-nat-goG12VdX ナットさん (Nat Friedman) CEO
  • 超すごい企業家。デベロッパーでもある。
  • 1977/8/6 生まれ。
  • 旅行好き。自家用飛行機を持っている
  • Microsoft社でインターンを経験した。
  • Xamarin(ザマリン)社が生まれた直後、資金が無かったり、元会社との権利関係で問題になっていて、大変だった時、CEOとして招かれた。すぐに、資金を調達したり、卓越した交渉能力で権利関係を解決したり、他色々な施策をし、Xamarin社を大きくした。
img-miguel-CP0Jewpu ミゲルさん (Miguel de Icaza) CTO
  • 超すごいデベロッパー。OSS大好き!GNOME(グノーム。UNIX系OSでよく利用されるデスクトップ環境の一つ) と Mono という、2つの超有名なOSSプロジェクトを始めた人でもある。
  • 1972年 生まれ。(ナットの5歳上)
  • 父は物理学者、母は生物学者という科学者の家庭で育った。
  • Xamarin(ザマリン)社を創った人。(創立翌月にナットがCEOとして参加)
  • 受賞歴
    1. フリーソフトウェア財団から1999年のAward for the Advancement of Free Software を受賞
    2. マサチューセッツ工科大学から1999年のイノベーター賞を受賞
    3. 2000年9月のタイム誌における新世紀のイノベーター百人の一人として名前が挙がっている。
  • ナットとミゲルの出会いは、Microsoft社だった。1997年夏、MSに採用面接を受けに来たミゲルが、当時MSで学生インターンをしていたナットと知り合った。以来、親友に。

Xamarin社の発足

Xamarin社は、もともとはミゲルさんをリーダーとするMonoプロジェクト(*1)の開発メンバーが集まって、
2011年に独立した会社として結成されたものです。(CEO: Nat Friedman、CTO: Miguel de Icaza)

*1 Monoプロジェクト: Microsoftの .NET Framework を Linux上でも動かせるようにしたいよね、という思想から始まった、.NET Framework の Unix で動作する互換実装を目的とした OSSプロジェクト
(ちなみに、今は .NET Framework の中心的なサブセットである .NET Core は、Microsoft自身により OSSになり GitHub上に全部公開されてる。.NET Core は Linux上でも動く。2001年当時は、存在しなかった。)

( *゚▽゚* っ)З「ちなみに、Xamarin(製品) は、Monoベースのアプリケーションを作るための開発ツールなのよ」

(*゚▽゚*)「なんで Mono ベースじゃないとダメだったかというと、.NET Framework は Windows 上でしか動かないからね」 logo_net_201 mono

Mono に関する余談

私は最初は
「えっ? Xamarin を使えば、C#で iOS/Android アプリが開発できるの?
 でも、C# は .NET Framework 上で動くものだし、.NET Framework は Windows 上にしか無いんじゃないかな?
 どういうこと?なんで C# が Windows 以外で動くの?
って思っていました!

Mono のおかげで、それが実現出来ているのですね!

4行で説明する、流れ

  1. Monoの開発などをする会社『Ximian(ジミアン)』社を、ナットとミゲルの2人で作った。
  2. 数年後、他企業に買収された!そしたらなんと、Mono開発チームが解散させられ、さらに大半(ミゲル含む)が解雇されちゃった!Σ(・□・;)
  3. けど、ミゲルは、Mono続けたくて Xamarin(ザマリン)社作ったよ。すぐに後からナットも参加。
  4. Xamarin社は、2016年にMicrosoft社とひとつになったよ。←今ここ

登場会社

会社名が5つほど出てきて紛らわしいので、ここに。

会社ロゴ 説明
Logo_ximian Ximian(ジミアン)社ミゲルとナットが創立者。オープンソースのLinux向けデスクトップ環境であるGNOMEや、.NET Framework 互換実装のひとつであるMonoを開発する米国企業
Novell_Logo Novell(ノベル)社Ximian(ジミアン)社を買収した
Attachmate(アタッチメイト)社Novell社を買収した
xamarin-horizontal-blue@2x Xamarin(ザマリン)社クビになった翌週に、解散させられた Mono開発者をミゲルが集めて、創った会社。Monoプロジェクトや、クロスプラットフォーム開発ツールの Xamarin など開発する
microsoft Microsoft社2016年、Xamarin社を買収した

おおまかな流れ

わりと詳しく説明:

1.
ミゲルとナットが、会社Ximian(ジミアン)を作る。
2. ミゲルが、Monoを発表。オープンソースのMonoプロジェクトが始まる。 3. Ximian(ジミアン)社が、Novell(ノベル)社に買収される。 - Novell(ノベル)社は、Ximian(ジミアン)の名称とその開発プロジェクトを全て存続させた。 - (ナットは途中でNovell(ノベル)社を辞める) 4.
2011年4月。Novell(ノベル)社が、Attachmate社に買収される。
- Novell(ノベル)社時代に開発した MonoTouch (今の Xamarin.iOS) と Mono for Android (今の Xamarin.Android)も、Attachmate社の所有物となる。(これ、後でヒビいてくる) - (ライセンス周りの補足。Mono自体はオープンソースだけど、MonoTouchと Mono for Androidは 商用ライセンス)

5.
買収の翌月、なんとMono の開発チームが解散させられる。そしてMonoチームの大半は解雇!(もちろんミゲルも解雇!(めっちゃ勿体無い…逃した魚は大きかったな…))
- Mono開発チームを解散した理由として、Attachmate社は Monoの将来を疑問視していたことが挙げられる。 - ちなみに、Monoチームだけでなく、他にも数百人という大量の人が解雇された。これは大規模なリストラだった

6.
2011年5月。ミゲルは、Monoを続けるために、Xamarin社を立ち上げる
- ミゲル「Monoベースの製品を中心とする、新しい会社Xamarinを、今日、立ち上げました!」 - ミゲル「iOS,Android 向けの .NET互換環境を提供する商品を作るよ」 - ミゲル「オープンソースの Mono の開発・サポートも続けるよ」 from ミゲルのブログ記事

7.
ミゲルによって立ち上げられたXamarin社は、最初はすごく厳しかった。(from Xamarinの中の人によるブログ
- 解雇された翌週にすぐ立ち上がったXamarin社には、メンバーもすぐには集まらないし、集まっても、彼らに十分な給料を支払えるお金が生まれる保証が無かった。そのため、joinしないことに決めた人たちもいた。(主に家庭持ちの人たち) - 何より、権利関係が一番面倒だった!Novell(ノベル)社時代に開発した MonoTouch (今の Xamarin.iOS) と Mono for Android (今の Xamarin.Android) は、Attachmate社に著作権が残っていて、Xamarinでは、フルスクラッチでこれらを再実装するところから始めなければならなかった。

8.
こりゃやばい、どうしよう、と、ミゲルが、旅行中のナット (ナットは途中でNovell(ノベル)社を辞めていた) に相談したところ、なんとナットがCEOとして Xamarin社に来ることになった!ミゲルとナットのコンビ再結成である。
9.
ナットの交渉能力と経営手腕はすごいもので、CEO就任後 瞬く間(2ヶ月間のうち)に、上記の権利関係の問題を解決し、資金調達もこなした。ナットはその後も矢継ぎ早に経営策を立てていく。当時存在しなかったマーケティングチームなど設立、新しいオフィス設立など、他にも色々しているので詳しくはXamarinの中の人によるブログにて
10. Xamarin社が、Monoをベースとした、クロスプラットフォーム開発ツールの Xamarin を開発。(Xamarin.Android, Xamarin.iOS, Xamarin.Mac, Xamarin.Forms) 11. 2013年。Xamarin社が、Microsoft社とパートナーシップを結ぶ。 12. 2016年。Xamarin社が、Microsoft社に買収される。(これはとても良いニュース!)Xamarin(製品)が無料&OSSとなった

history
(画像:What is Xamarin? より)

年表

簡単に年表をまとめます。

日付 できごと
1997 ミゲル(24-25)が、紹介を受けて、Microsoft社に採用面接を受けに行った。(でも結局、大学の学位の不足により合衆国就労ビザを取得することができず、職を得ることはできなかった) そこで、当時Microsoft社にインターンをしていたナット(19-20)と出会う。
08/15 ミゲルが、フェデリコ・メーナと共に GNOMEプロジェクトを開始
1999 10月 ミゲルとナットが、会社Ximian(ジミアン)を作る。(正確には、当時は別の名前『Helix Code社』だった。会社名を『Ximian』と変更したのは 2001年 )
2001 07/19 ミゲルをリーダーに、オープンソースのMonoプロジェクト発足
2003 08/04 Ximian(ジミアン)社が、Novell(ノベル)社に買収される。
2004 06/30 Mono 1.0 リリース。
2011 4月~5月
  • Novell(ノベル)社が、Attachmate社に買収される。
  • すぐに、Monoチームは解散になった
05/16 ミゲルにより、Xamarin社、創立。翌月ナットがCEOとして参加
2013
  • 2月、Xamarin 2.0 リリース
  • 4月、最初の『Xamarin Evolve』イベントを開催
  • 11月、Microsoft社とパートナー提携を結ぶ。(Visual Studio 2013へのXamarin開発環境の統合、など。[詳細]
2016 02/24 ・突然、Xamarin社の、Microsoft社による買収が、発表される。(このニュースはすごく喜ばしいものとして全世界の開発者たちから歓迎されました)(ちなみに、私事ですが、これは、私のMicrosoft社の内定が出た直後の話でした。すごく驚きました!やったー!)
  04/01 Microsoft社の公式カンファレンス『Build 2016』が開催。その中で、Xamarinについて以下の発表がされる ・Xamarin(製品)が OSSとなる ・Xamarin(製品)のライセンス代が無料になる。(買収前は、年25(万円/人)くらいだった)
  04/24-28 ・Xamarin公式カンファレンス『Xamarin Evolve 2016』開催

References

  1. Monoの死と再生 - 2011/5/22。Mono開発チーム全員解雇→Xamarin社創立あたり
  2. Xamarinの2年半を振り返る - 2013年末。Xamarinの中の人によるブログ。Xamarin社発足後からの記事。とても良い
  3. Visual StudioでiOS/Androidアプリが書けるXamarinを試してみた(iOS編) - 2013年末のMS社とのパートナーシップについての参考
  4. Helix Code is now "Ximian, Inc"

Thanks!

Xamarinの中の人である榎本さん (Xamarin.Androidの開発チーム)、査読ありがとうございました!

このエントリーをはてなブックマークに追加