ちょっとひと言

プレゼンテーションの「パワーのポイント」

David Platt

image: David Platt私は先日、自分の職業人生で何回遭遇したかわからない、ひどい PowerPoint プレゼンテーションを最後まで聞かされるはめになりました。すばらしい PowerPoint プレゼンテーションに出会った人はいるのでしょうか。私は思い出せません。そのようなプレゼンテーションは、おそらく、シベリアトラよりも貴重です。

発表者はどうやら、スライド画面の切り替えに使うさまざまな効果を発見したばかりのようで、バウンド、ディゾルブ、下へのワイプ、8 本スポークの時計回りの車輪など、スライドごとに違う効果を使っていました。このプレゼンテーションは、80 年代後半に初めてレーザー プリンターを手にしたときのことを思い起こさせました。当時、ただ「可能だから」という理由で数単語ごとにフォントを変えたため、ドキュメントはまるで誘拐犯が身代金を要求する手紙のようになりました。

さらに悪いことに、この発表者は、PowerPoint のスライドにある箇条書きを 1 つずつ読み上げるだけでした。この芸術家気取りの発表者が箇条書きリストを読み上げるのを聞くために、保安検査官に囲まれ、泣きわめく幼児を抱えたまま飛行機に詰め込まれ、いくつもの時間帯を越え、ホテルのまずい食事を取り、ごつごつしたマットレスの上で寝たというのが、2,000 ドルも払った結果です。こんなことなら家にいて、自分のテンピュール製のベッドで眠り、子どもと遊び、自分で箇条書きを読んだ方がどんなに良かったでしょう。

私は、発表者には PowerPoint でプレゼンテーションを行うライセンスの取得を義務付ける必要があると思います。ライセンスを取得して、認定インストラクターとしての認証キーを入力しなければ、プロジェクターに接続されたコンピューターで PowerPoint が起動しなくなるのです。プレゼンテーションの発表者は、自分の発表のために集まった聴衆の中を歩き回り、バッジに書かれてある相手の名前を読み上げ、可能であれば握手をし、できるだけ多くの人にあいさつしなくてはなりません。そして、どこから来たのか、どんな仕事をしているのか、何を学びにここに来たのかたずねます。そうすれば、聴衆と発表者の波長が合い始めます。

発表中は、演壇から離れ、スライド切り替えにはワイヤレス リモコンを使います。映写中の画面を見ようとして聴衆者から顔を背けることのないよう、モニターを聴衆者の前に自分に向けて置き、個人個人とアイコンタクトを取れるようにします。会場でそのようなモニターが使えなければ、同僚に、画面が発表者に向けられた状態でラップトップ コンピューターを持ち上げてもらいます。同僚に断られたら、出席者を買収しましょう。どちらも叶わなければ、あなたは世界で 1 人ぼっちだといえるでしょう。PowerPoint プレゼンテーションのやり方うんぬんよりもはるかに大きな問題を抱えていることになります。ですが、自分の問題を聴衆に押し付けるべきではありません。

同様に、PowerPoint デッキを作成する人にも、先ほどのものとは異なる新しい認証制度を設け、認証がない限りは PowerPoint がデッキを映写しないようにする必要があります。現在の PowerPoint の認定資格では、使い方を教えてはいますが、すべきこととすべきではないこと、そしてその場所、時、理由については教えていません。チェーンソーを使い始める方法は教えていても、チェーンソーのどちら側を持てばよいのか教えていないようなものです。

たとえば、色にグラデーションをかける方法については教えていますが、どんなときにグラデーションを使えば聴衆のエクスペリエンスが向上し、どんなときに低下するかは教えていません。マイクロソフトが 2010 年 11 月に行った Windows Azure Platform Training Kit のプレゼンテーションのスライドにはすべて、左から右へ、濃い青から明るい青に変化する横方向のグラデーションが使用されていました (図 1 参照)。あるマイクロソフトの社員は、「これが私たちのブランディングなんです。かっこいいと思いませんか。何か問題ですか」と言いました。

image: The Background Isn’t Easy on the Eyes

図 1 目に優しくない背景

ええ、問題があります。白いテキストと背景色とのコントラストが絶えず変化するので、行を読み進めるにつれ、常に筋肉を調節しなくてはなりません。そのため、たちまち眼筋に痛みが走り、体が「ちょっと、やめてくれ」と叫び始めるでしょう。皆さんも、試してみてください。図のテキストに焦点を合わせてみましょう。1 分もしないうちに、すぐに紛れもなく刺すような痛みに襲われます。クラスの出席者は、このようなスライドを 3 日間も見続けるのです。何とも哀れなことです。

このブランディングは、「私たちはマイクロソフトです。皆さんの頭痛を引き起こしていることはわかっていますし、何が何でもそうします。覚えておいてくださいね」と言っています。これが意図だとは思っていませんが、紛れもない結果なのです。

稚拙な発表者と稚拙なスライド作成者はどちらも、ソフトウェア パッケージの使用法についてしっかりと訓練されている必要があります。彼らは、人間とのコミュニケーションの訓練がなされていません。彼らの労力が最終的に目標とするのが人間とのコミュニケーションであり、ソフトウェア パッケージによって向上すべきなのも人間とのコミュニケーションです。実際には何を行っているのか、彼らに教えることから始めなくてはなりません。

David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。