ちょっとひと言

急成長をもう一度

David Platt

David Platt劣勢にたったマイクロソフトを見るのも感慨深いものがあります。

マイクロソフトがコンピューター業界の巨人と謳われたのはそれほど昔のことでもありません。「電球を交換するのにマイクロソフトのプログラマは何人必要か」というジョークを覚えている方もいるでしょう。答えはもちろん、「ゼロ」です。ビル ゲイツが「暗闇こそマイクロソフトの新しい標準だ」と宣言すればよいのです。

しかし、マイクロソフトが PC にかかりきりになっている間 (msdn.microsoft.com/magazine/hh224515) に、IT 業界には新しいビジネス分野が生まれました。モバイル デバイスとクラウドです。クラウドについては、マイクロソフトの業績が好調を続けていることが最新の統計で示されています。クラウドは、PC ビジネスのサーバ側の論理的な延長線上にあると考えられるからかもしれません。

しかし、モバイル デバイスについては、マイクロソフトはかなり苦戦しています。

2013 年 11 月のコラム (msdn.microsoft.com/magazine/dn463796) に書いたように、マイクロソフトが大きな市場シェアを獲得するための鍵は、エコシステムで優れたアプリを数多く利用できるようにすることです。つまり、「現在持てるスキルを使って、この新しい "デバイスとタブレット" の世界に向けたアプリを喜んで開発する」マイクロソフトの開発者集団を利用するのです。このような開発者は iOS と Android をサポートする必要がありますが、それほど手間が増えなければ、Windows 8 もサポートするでしょう。私はそのコラムに「マイクロソフトは、同じコードベースから 3 つすべてに対応できるツールキットを開発する必要があります」と書き、「新 CEO は、自分でやるか、手始めに Xamarin を買収してください。ただし、さっさと実行しないと、開発者たちがしびれを切らしてくら替えしてしまいます」と続けました。

Xamarin の買収は実現していませんが、両社の距離は縮まっています。2014 年 4 月の Build 2014 カンファレンスでは、Xamarin が重点的に取り上げられました。最近アトランタで開催された Xamarin Evolve 2014 サミットは、開催前にチケットが売り切れになりました。

Xamarin と Visual Studio の統合は、Visual Studio の既存のユーザーの期待を裏切らず、そのスキルがほぼシームレスに移し変えられます。ただ、「1 つのボタンをクリックするだけで、iOS、Android、Windows の各バージョンのアプリが生成される」レベルには達していません。この 3 つの主要モバイル プラットフォームは大きく異なっているため、完全に抽象化することはできません。しかし、Xamarin を利用すれば、モバイル アプリの各プラットフォームに共通のビジネス ロジックと、プラットフォームごとに異なるプレゼンテーションとを切り離すことができます。また、C# などの使い慣れた言語と、デバッガーなどのツールを使ってパッケージ全体を開発できます。プレス発表では、Xamarin を学生に無料で提供する新しいプログラムも告知されました。Xamarin 社は、正しい方向にどんどん進んでいます。

私は数年前、Xamarin 社から開発者向けトレーニングの開講に興味はないかとたずねられました。私は当時同社が提示した額を上回る報酬を求めたため、話し合いはまったく進みませんでした。しかし、昨年春に同社のオンライン トレーニング クラスを生徒として受講して、そのレベルの高さを認識しました。私ほどの才能あふれる講師ならば (正直に言って、私ほどの講師はいないと思うのですが)、クラスが 1 つ開講されるだけでなく、複数の曜日のさまざまな時間帯にクラスが開講されることになっていたのは間違いありません。今では Xamarin との話し合いがうまく行くように価格を抑えればよかったと思っています。

同社は、MSDN マガジンの元コラムニスト Charles Petzold を社内専門家として迎え入れました。同社は彼を「API を書籍に変えるチューリング完全エンジン」と称し、彼の雇用をメジャー リーグへの昇格さながらに大々的にプレス発表しました (bit.ly/1o9tfi7、英語)。彼の近刊『Creating Mobile Apps with Xamarin.Forms』は 2015 年春に発売予定です。私は 1990 年に彼の有名な著書 (『プログラミング Windows』) で Windows について学びました。この近刊にも期待しています。

私は自書の『Why Software Sucks』の中で、マイクロソフトが面白みのないメインフレームの既成秩序を覆した、生意気な新興企業と考えられていた 1990 年代について書いています。現在はティーンエイジャーになった娘が初めて歩いたとき、学校に通い始めたとき、初めて外泊したときを懐かしむように、当時のマイクロソフトを懐かしく思い出します。これから起こる出来事を今度は祖父のような目線で見つめてみようと楽しみにしています。私は現在のデバイスの世界で見つめながら、息子のマイクロソフトと、孫の Xamarin の成長した姿を見たいと願っています。


David S. Platt は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です。