ちょっとひと言

先住民、移民、共生者

David Platt

David Platt2001 年、Marc Prensky は、生まれたときからデジタル テクノロジに親しんでいる世代を指して「デジタル先住民」という造語を作りました。IT が普及するよりも前に生まれた世代を「デジタル移民」と呼んでいます。私の 12 歳と 14 歳の娘は「デジタル先住民」です。私は、26 歳のときに初めて PC を手に入れた「デジタル移民」です。どれだけ頑張っても、なまりのある、おたくのような話し方しかできません。

Prensky は当時のデジタル テクノロジ (家庭用 PC) について書いていました。その当時は、PC といえば、特定の場所に据え置いて使用しなければならないデスクトップ PC でした。これが、半世代前に長く続いたおたくの時代です。タブレットや携帯電話が普及する社会はまだ先の話です。しかし、今ではこうしたタブレットや携帯電話が全盛となり、先住民と移民の新たな隔たりが生まれています。

現在の若年層 (Prensky が最初に定義した「デジタル先住民」) は、スマートフォンを愛しています。彼らはスマートフォンを片時も離さず、すきあらば操作し、新しい第 5 の力として崇拝しています (2012 年 2 月号のコラム (msdn.microsoft.com/magazine/hh781031、英語) の特に動画に注目してください)。

しかし、1990 年代後半から 2000 年代半ばに生まれた彼らは PC に対して先住民であっても、常時ネットワーク接続型のこのモバイル世界に対しては移民です。デジタル移民の両親が PC に対してそうだったように、現在のモバイル移民は、何年も前に形成された大人の行動様式を土台に、この新しいテクノロジを重ねています。私の 4 歳の姪は歩けるようになる前に iPad を指でスワイプできましたが、次世代では当たり前のこのような潜在能力は、モバイル移民にはありません。言語獲得のために進化し、影響を受けやすい子どもの脳は、このような新しい力によって、これまでにない形に作り変えられます。

これから生まれてくる世代は、デジタルによる強化のない世界を経験することは一瞬たりともないでしょう。新生児室のベビー ベッドには乳児の様子をモニターするデジタル デバイスが装着され、乳児が少しでも泣けば Amazon Echo が起動して、メロディーが流れ、乳児をあやします。子どもたちは本物の積み木ではなく、子ども用タブレットの積み木ゲームで遊ぶことになります。

言葉を使えるようになると、与えられたパラメーターの中で世界を操ろうとします。「じゃーね、Amazon さん、『クマのプーさん』を読んでちょうだい」。しばらくすると、パラメーターを変えて、自分の力を誇示しようとします。「いいわ、Amazon さん、『クマのプーさん』を読んで。でも、今度はピグレットをベーコンにしてね」

子どもたちは Google Glass や Apple Watch を身に着けるようになります。幼稚園がどのようになるかは神のみぞ知る、です。私の想像では、幼稚園の机に充電用のコンセントが常備されるようになります。彼らはデバイスを身に着けていないと能力を著しく阻害されていると感じることでしょう。私たちが眼鏡をかけていないときの感覚と同じです。そこで、この世代を「デジタル共生者」と名付けることにしましょう。

このような「デジタル共生者」を育てるには、必然的に新しいデジタル アシスタントが必要になります。Cortana や Siri の変わりに、Mary Poppins や Supernanny を用意しましょう。「Google が育児サポーター」みたいなものです。アシスタントを構成して、就寝時間や、子どもが見てもよいテレビ番組を決めます。当然、共生者は両親よりも高度な技術知識を持っています (世の中にはどうしても変わらないことがあるものです)。彼らはこうした構成をもっと寛容なものに調整できます。そして、それをとがめられても知らないと弁明するでしょう。

私は、数々のチャンスの中には大きな危険も潜んでいると考えています。現在は、米国国家安全保障局 (NSA) に自分のメールが盗み読まれているのではないかと心配するようになっています。今後は、NSA が通信事業者の信号を変調して、共生者の潜在意識に「政府を愛せよ」という条件付きのサブリミナル メッセージを刷り込むのではないかと心配するようになるでしょう。ハッカーはソーシャル メディアで見かけた情報を使用するかもしれません。「Bobby、犬の Fido が天国で寂しがっているよ。おやつを買ってほしいってさ。お父さんの財布から Visa カードを出して、番号を読み上げてくれないかな...」

両親は、デジタル共生者の子どもに自分が選んだ価値体系を教え込むアプリを購入するものと思われます。その最たる例が宗教です。2 歳児が暗い夜にこう呼びかけます。「そこにいますか、神様[ご自分の神様を選択してここに挿入]?」Echo アプリが答えます。「もちろん。Bobby、私はいつもそばにいますよ」。サンタクロースを助けようした娘たちに捕まって人気が急落した私としては、神に給電している両親が子どもに捕まっている場面には居合わせたくないものです。

最後に、次のことを考えて、震え上がってください。デジタル共生者の子どもはどのようになるでしょう。デジタル移民でしょうか。さらに、その子供はどうなるでしょう。


David S. Platt * は、ハーバード大学の公開講座や世界中の会社で .NET のプログラミングの講師をしています。『Why Software Sucks...and What You Can Do About It』(Addison-Wesley Professional、2006 年) や『Microsoft .NET テクノロジ ガイド』(日経BPソフトプレス、2001 年) などの、11 冊のプログラミング関連の書籍の著者でもあります。2002 年には、マイクロソフトから Software Legend に指名されました。David は、8 進法で数える方法を学べるように、娘の 2 本の指をテープで留めるかどうか悩んでいるところです。連絡先は rollthunder.com (英語) です*。