ストレッチ クラスターを実装する
従来、フェールオーバー クラスターによって提供される高可用性の保護の範囲は、局所的な障害から、物理的に同じ場所に存在する 1 つ以上のクラスター ノードまででした。 同等の機能を複数の物理的な場所に提供する必要がある場合は、ストレッチ クラスターを使用できます。
ストレッチ クラスターとは
ストレッチ クラスターを使用すると、物理的に異なる 2 つの場所を対象にして、高可用性とディザスター リカバリーが実装されます。 両方の場所で個別にストレージ システムがホストされており、プライマリ サイトからセカンダリ サイトへの一方向の同期レプリケーションが行われます。 障害によってプライマリ サイトの可用性が影響を受けた場合は、ダウンタイムを最小限に抑えるため、そのワークロードがクラスターによってセカンダリ サイトのノードに自動的に移行されます。 プライマリ サイトでの計画メンテナンス イベントの場合、Hyper-V のライブ マイグレーションを使用して、ワークロードを他のサイトにシームレスに移行することができます。これにより、ダウンタイムが完全に回避されます。
ストレッチ クラスターを使用すると、ディザスター リカバリー サイトを手動で管理するより、いくつかの利点があります。
- クラスター化されたワークロードの自動レプリケーションと自動フェールオーバー。
- 管理オーバーヘッドの削減。
- 手動プロセスに付きもののヒューマン エラーの可能性の最小化。
一方、ストレッチ クラスターを使用すると、設計と実装の複雑さが増します。 また、通常、ストレージとネットワークのインフラストラクチャへの追加投資が必要です。
記憶域レプリカの概要
ストレッチ クラスターによって利用される記憶域レプリカは、ディザスター リカバリーのためにサーバー間またはクラスター間でのボリュームのレプリケーションを提供する Windows Server の機能です。 記憶域レプリカを使用するこよにより、ストレッチ クラスターでは、2 つの異なる場所のストレッチ クラスター ノードにアタッチされている記憶域ボリュームを同期できます。
記憶域レプリカでは、以下の同期および非同期レプリケーションをサポートしています。
- 同期レプリケーションの場合は、ラウンドトリップ時間がミリ秒単位の低遅延ネットワークを介してデータがレプリケートされ、フェールオーバーの間にファイル システム レベルでデータの損失が発生しないことが保証されます。
- 非同期レプリケーションの場合は、さらに長い待機時間が発生する遠距離でデータがレプリケートされますが、フェールオーバーの時点で両方のサイトのデータのコピーが同一であることは保証されません。
重要
ストレッチ クラスターには同期レプリケーションが必要です。 この要件により、レプリケートされるサイト内の 2 つのクラスター ノード グループ間のラウンドトリップ ネットワーク遅延時間は 5 ms に制限されます。 この制約を距離に置き換えると、物理ネットワーク接続の特性にもよりますが、通常は、約 20 から 30 マイルになります。
記憶域レプリカの機能
次の表は、記憶域レプリカの主な機能です。
機能 | 説明 |
---|---|
ブロックレベルのレプリケーション。 | ブロック レベルのレプリケーションでは、ファイルのロックが発生する可能性はありません。 |
簡便性 | Windows Admin Center を使用すると、2 つのサーバー間のレプリケーション パートナーシップを作成するプロセスをガイドに従って実行できます。 ストレッチ クラスターを展開するには、フェールオーバー クラスター マネージャーベースのウィザードを使用できます。 |
サーバー メッセージ ブロック (SMB) 3.0 の使用 | 記憶域レプリカは SMB 3.x に依存しています。これは、Windows Server 2012 で導入され、それ以降のバージョンの Windows Server で大幅に拡張されました。 SMB マルチチャネルや SMB ダイレクトなどの SMB の高度な特性はすべて、記憶域レプリカで使用できます。 |
セキュリティ | 記憶域レプリカには、パケット署名、AES-128-GCM の完全データ暗号化、サードパーティの暗号化アクセラレーションのサポート、事前認証整合性による中間者攻撃の防止など、さまざまなセキュリティ メカニズムが備わっています。 また、記憶域レプリカでは、ノード間のすべての認証で Kerberos AES256 に依存しています。 |
ネットワーク制約 | レプリケートされたボリューム間に複数のネットワーク パスがある場合は、指定されたネットワーク アダプターを使用するように、記憶域レプリカのトラフィックを構成できます。 これにより、運用環境のワークロードに対するレプリケーション トラフィックの潜在的な影響を最小限に抑えることができます。 |
仮想プロビジョニング | 記憶域スペース ダイレクトに仮想プロビジョニングを実装するオプションがあり、初期レプリケーションの時間を最小限に抑えることができます。 |
ストレッチ クラスターを展開するための前提条件
ストレッチ クラスターを実装するための前提条件は次のとおりです。
クラスター ノードは、同じ AD DS フォレストまたは信頼された AD DS フォレストのメンバーである必要があります。
各クラスター ノードには、少なくとも 2 GB の RAM と 2 つの CPU コアが必要です。
各クラスター ノードでは、Windows Server 2025 Datacenter または Windows Server 2016 Datacenter エディションが実行されている必要があります。 Windows Server 2025 Standard エディションを使用することもできますが、そのような構成では、サイズが最大 2 テラバイト (TB) の 1 つのボリュームのレプリケーションのみがサポートされます。
各クラスター ノードには同期レプリケーション用にギガビット イーサネット アダプターが少なくとも 1 つ必要ですが、リモート ダイレクト メモリ アクセス (RDMA) が推奨されます。
プライマリ サイトとセカンダリ サイトに 2 つのボリューム セット (データ用とログ用)。次の設定を使用します。
ディスクは、マスター ブート レコード (MBR) ではなく、GUID パーティション テーブル (GPT) として初期化する必要があります。
- ボリュームは ReFS または NTFS でフォーマットされている必要があります。
- データ ボリュームのサイズとセクターのサイズが一致している必要があります。
- ログ ボリュームのサイズとセクターのサイズが一致している必要があります。
- ログ ボリュームには、データ ボリュームよりも高速なストレージを使用する必要があります。
- ログ ボリュームは、他のワークロードには使用しないでください。
インターネット制御メッセージ プロトコル (ICMP)、SMB (ポート 445 と、SMB ダイレクトの場合はさらにポート 5445)、Web サービス マネジメント (WS-MAN) (ポート 5985) を使用した、2 つのサイト間の双方向接続。
クラスター化されたワークロードの I/O 書き込みに対応するのに十分な帯域幅と 5 ミリ秒未満のラウンドトリップ待機時間を備えたサーバー間のネットワーク。
ストレッチ クラスターの展開に関する考慮事項
ストレッチ クラスターは、すべてのワークロードとすべてのシナリオに適しているわけではありません。 ストレッチ クラスター ソリューションを設計するときは、組織の要件と期待を明確に特定してください。 さらに、ストレッチ クラスターを使用すると、すべてのノードが同じ物理的な場所に存在する従来のクラスターより管理オーバーヘッドが増加することに注意してください。 また、物理サイト全体に影響を与える障害が発生した場合の可用性を最大にするため、クォーラム監視の最適な選択を慎重に検討する必要もあります。
重要
Microsoft SQL Server、Hyper-V、Microsoft Exchange Server、AD DS などのステートフルなアプリケーションとサービスでの高可用性には、ストレッチ クラスターを使用するのではなく、独自のネイティブな回復性メカニズムを使用する必要があります。
ストレッチ クラスターでのフェールオーバーとフェールバックに関する考慮事項
ストレッチ クラスターの展開の計画の一環として、以下の事項を考慮して、フェールオーバーとフェールバックの構成を定義する必要があります。
- インフラストラクチャの依存関係。 セカンダリ サイトへのフェールオーバーの後で引き続き使用できる必要がある重要なサービス (AD DS、DNS、DHCP など) を、明確に定義しておく必要があります。
- クォーラム モデル。 フェールオーバーの後でクラスターの機能が維持されるクォーラム モデルを選択することが重要です。
- サービスの公開と名前解決。 メールや Web ページなど、内部ユーザーまたは外部ユーザーに公開されているサービスがある場合は、別のサイトにフェールオーバーすると名前または IP アドレスの変更が必要になる場合があることに注意してください。 その場合は、内部またはパブリックの DNS で DNS レコードを変更する手順が必要になります。 ダウンタイムを減らすため、重要な DNS レコードの Time to Live (TTL) 値を短くすることをお勧めします。
- クライアント接続。 障害に備えて、フェールオーバー計画ではクライアント アプリケーションからクラスター化されたワークロードへの接続に対応している必要があります。 これには、内部クライアントと外部クライアントの両方が含まれます。
- フェールバック手順。 プライマリ サイトがオンラインに戻った後で実行するフェールバック プロセスを計画して実装する必要があります。 フェールバックは、正しく実行しないとデータの損失やサービスのダウンタイムが発生する可能性があるため、フェールオーバーと同じように重要です。
ストレッチ クラスターを作成する
Windows Admin Center、フェールオーバー クラスター マネージャー、または Windows PowerShell を使用して、ストレッチ クラスターを作成できます。 Windows Admin Center を使用すると、プロビジョニング プロセスがガイドされ、ほとんどの構成タスクが自動化されるので、ストレッチ クラスターを簡単に実装できます。 これには、次のサポートが含まれます。
- ハイパーコンバージド クラスター (フェールオーバー クラスタリング、Hyper-V、記憶域スペース ダイレクト)。
- 記憶域クラスター (フェールオーバー クラスタリング、記憶域スペース ダイレクト)。
注意
フェールオーバー クラスター マネージャーまたは Windows PowerShell を使用すると、ストレッチ クラスターの作成がさらに複雑になります。 どちらの方法でも、中間実装の各ステップを実行する必要があります。 簡単に説明すると、最初に、プライマリ サイトとセカンダリ サイトのすべてのノードで構成される従来の非ストレッチ フェールオーバー クラスターを作成します。 クラスターを作成し、その検証を完了した後、各サイトで、記憶域ボリュームのセットを個別に作成します。 最後に、記憶域レプリカを構成し、2 つのサイトの間で記憶域ボリュームをレプリケートします。