オブジェクト初期化子 : 名前付きの型と匿名型

更新 : 2007 年 11 月

オブジェクト初期化子を使用すると、1 つの式で複雑なオブジェクトのプロパティを指定できます。名前付きの型および匿名型のインスタンスの作成に使用できます。

宣言

名前付きの型と匿名型のインスタンスの宣言はほとんど同じように見えますが、その効果は同じではありません。それぞれのカテゴリに、固有の機能と制限があります。次の例では、オブジェクト初期化子リストを使用して、名前付きのクラス Customer のインスタンスを宣言して初期化する簡単な方法を示します。クラスの名前は、New キーワードの後で指定します。

Dim namedCust = New Customer With {.Name = "Terry Adams"}

匿名型には、使用できる名前はありません。したがって、匿名型のインスタンス化には、クラス名を含めることはできません。

Dim anonymousCust = New With {.Name = "Hugo Garcia"}

2 つの宣言の要件と結果は同じではありません。namedCust の場合は、Name プロパティを持つ Customer クラスが既に存在している必要があり、宣言ではそのクラスのインスタンスが作成されます。anonymousCust の場合は、コンパイラが 1 つのプロパティつまり Name という名前の文字列を持つ新しいクラスを定義し、そのクラスの新しいインスタンスを作成します。

名前付きの型

オブジェクト初期化子は、1 つのステートメントで型のコンストラクタを呼び出して一部または全部のプロパティの値を設定する、簡単な方法を備えています。コンパイラは、ステートメントに適したコンストラクタを呼び出します。つまり、引数がない場合は既定のコンストラクタを使用し、引数が 1 つでもある場合はパラメータ化されたコンストラクタを使用します。その後、初期化子リストで指定されている順序で、指定したプロパティが初期化されます。

初期化子リストでの各初期化では、クラスのメンバに初期値が代入されます。メンバの名前とデータ型は、クラスが定義されるときに決定されます。次の例では、Customer クラスが存在し、文字列値を受け付ける Name および City という名前のメンバを持っている必要があります。

Dim cust0 As Customer = New Customer With {.Name = "Toni Poe", _
                                           .City = "Louisville"}

または、次のコードを使用して同じ結果を得ることもできます。

Dim cust1 As New Customer With {.Name = "Toni Poe", _
                                .City = "Louisville"}

これらの各宣言は、次の例と同等です。この例では、既定のコンストラクタを使用して Customer オブジェクトを作成した後、With ステートメントを使用して Name プロパティと City プロパティの初期値を指定しています。

Dim cust2 As New Customer()
With cust2
    .Name = "Toni Poe"
    .City = "Louisville"
End With

Customer クラスに、Name の値を指定できるようにするパラメータ化されたコンストラクタが含まれる場合は、たとえば、次のような方法で Customer オブジェクトを宣言して初期化することもできます。

Dim cust3 As Customer = New Customer("Toni Poe") _
    With {.City = "Louisville"}
' --or--
Dim cust4 As New Customer("Toni Poe") _
    With {.City = "Louisville"}

次のコードで示すように、すべてのプロパティを初期化する必要はありません。

Dim cust5 As Customer = New Customer With {.Name = "Toni Poe"}

ただし、初期化リストは空にできません。初期化しないプロパティは既定値のままになります。

名前付きの型での型の推論

オブジェクト初期化子とローカル型の推論を組み合わせることで、cust1 を宣言するためのコードを短縮できます。この方法を使用すると、変数宣言での As 句を省略できます。変数のデータ型は、代入によって作成されるオブジェクトの型から推論されます。次の例では、cust6 の型は Customer です。

Dim cust6 = New Customer With {.Name = "Toni Poe", _
                               .City = "Louisville"}

名前付きの型についての解説

  • オブジェクト初期化子リストでクラスのメンバを 2 回以上初期化することはできません。cust7 の宣言はエラーになります。

    '' This code does not compile because Name is initialized twice.
    ' Dim cust7 = New Customer With {.Name = "Toni Poe", _
    '                                .City = "Louisville" _
    '                                .Name = "Blue Yonder Airlines"}
    
  • メンバは、それ自体または別のフィールドの初期化に使用できます。次の例での cust8 の宣言のように、初期化する前のメンバにアクセスすると、既定値が使用されます。オブジェクト初期化子を使用する宣言が処理されるとき、最初に行われるのは、適切なコンストラクタの呼び出しです。その後、初期化子リストの個別のフィールドが初期化されます。次の例では、cust8 には Name の既定値が代入され、cust9 には初期化された値が代入されます。

    Dim cust8 = New Customer With {.Name = .Name & ", President"}
    Dim cust9 = New Customer With {.Name = "Toni Poe", _
                                   .Title = .Name & ", President"}
    

    次の例では、cust3 と cust4 のパラメータ化されたコンストラクタを使用して、cust10 と cust11 を宣言および初期化しています。

    Dim cust10 = New Customer("Toni Poe") With {.Name = .Name & ", President"}
    ' --or--
    Dim cust11 As New Customer("Toni Poe") With {.Name = .Name & ", President"}
    
  • オブジェクト初期化子は入れ子にできます。次の例では、AddressClass は 2 つのプロパティ City と State を持つクラスであり、Customer クラスには AddressClass のインスタンスである Address プロパティがあります。

    Dim cust12 = New Customer With {.Name = "Toni Poe", _
                                    .Address = New AddressClass _
                                    With {.City = "Louisville", _
                                          .State = "Kentucky"}}
    Console.WriteLine(cust12.Address.State)
    
  • 初期化リストは空にできません。

  • Object 型のインスタンスを初期化することはできません。

  • 初期化するクラスのメンバとして、共有メンバ、読み取り専用メンバ、定数、またはメソッド呼び出しを指定することはできません。

  • インデックス付きのクラス メンバまたは修飾されたクラス メンバは初期化できません。次の例では、コンパイラ エラーが発生します。

    '' Not valid.

    ' Dim c1 = New Customer With {.OrderNumbers(0) = 148662}

    ' Dim c2 = New Customer with {.Address.City = "Springfield"}

匿名型

匿名型は、オブジェクト初期化子を使用して、明示的に定義および名前付けされていない新しい型のインスタンスを作成します。コンパイラは、オブジェクト初期化子リストで指定されているプロパティに従って型を生成します。型の名前が指定されないので、匿名型と呼ばれます。たとえば、次の宣言と、前に示した cust6 の宣言を比較してください。

Dim cust13 = New With {.Name = "Toni Poe", _
                       .City = "Louisville"}

構文上の違いは、データ型の New の後に名前の指定がないことだけです。しかし、処理はまったく異なります。コンパイラは、2 つのプロパティ Name と City を持つ新しい匿名型を定義し、指定された値でその型のインスタンスを作成します。型の推論により、この例での Name と City の型は文字列に決まります。

Bb385125.alert_caution(ja-jp,VS.90).gif注意 :

匿名型の名前は、コンパイラによって生成されるので、コンパイルのたびに変わる可能性があります。コードで、匿名型の名前を使用したり名前に依存したりすることはできません。

型の名前を使用できないので、As 句を使用して cust13 を宣言することはできません。型は推論される必要があります。遅延バインディングを使用しない場合、これによりローカル変数に対する匿名型の使用は制限されます。

匿名型は、LINQ クエリのサポートにとって重要です。クエリでの匿名型の使用の詳細については、「匿名型」および「Visual Basic における LINQ の概要」を参照してください。

匿名型についての解説

  • 通常、匿名型の宣言におけるすべて、またはほとんどすべてのプロパティはキー プロパティであり、プロパティ名の前に Key キーワードを付けることで指定します。

    Dim anonymousCust1 = New With {Key .Name = "Hugo Garcia", _
                                   Key .City = "Louisville"}
    

    キー プロパティの詳細については、「キー (Visual Basic)」を参照してください。

  • 名前付きの型と同様に、匿名型の定義の初期化子リストでは、少なくとも 1 つのプロパティを宣言する必要があります。

    Dim anonymousCust = New With {.Name = "Hugo Garcia"}
    
  • 匿名型のインスタンスを宣言すると、コンパイラは一致する匿名型の定義を生成します。プロパティの名前とデータ型はインスタンスの宣言から取得され、コンパイラによって定義に組み込まれます。名前付きの型とは異なり、事前にプロパティに名前が設定され、プロパティが定義されることはありません。型は推論されます。As 句を使用して、プロパティのデータ型を指定することはできません。

  • 匿名型では、プロパティの名前と値を設定する方法は他にもいくつかあります。たとえば、匿名型のプロパティは、変数の名前と値、または別のオブジェクトのプロパティの名前と値を取得できます。

    ' Create a variable, Name, and give it an initial value.
    Dim Name = "Hugo Garcia"
    
    ' Variable anonymousCust2 will have one property, Name, with 
    ' "Hugo Garcia" as its initial value.
    Dim anonymousCust2 = New With {Key Name}
    
    ' The next declaration uses a property from namedCust, defined
    ' in an earlier example. After the declaration, anonymousCust3 will
    ' have one property, Name, with "Terry Adams" as its value.
    Dim anonymousCust3 = New With {Key namedCust.Name}
    

    匿名型のプロパティを定義するオプションの詳細については、「方法 : 匿名型の宣言におけるプロパティ名と型を推論する」を参照してください。

参照

処理手順

方法 : 匿名型の宣言におけるプロパティ名と型を推論する

方法 : 匿名型のインスタンスを宣言する

方法 : オブジェクト初期化子を使用してオブジェクトを宣言する

概念

ローカル型の推論

匿名型

Visual Basic における LINQ の概要

名前付きの型と匿名型の比較

参照

キー (Visual Basic)