ユーザー インターフェイスを考える

2007年も始まってひと月がまもなくすぎようとしています。私もベータの頃からWindows Vista、Office 2007など試用し、正式リリース後からは製品版を使っていますが、まだ十分に操作に慣れていないせいか、「これを使うにはどうしたら・・・」といった感じです。そんな中で、お客さまのお問い合わせを検証するために、過去のOSや製品を使ったりすると、やはり隔世の感があります。

Vistaなどは、最初は、角がさらに少なくなったことや3Dの透明感の表現などビジュアルな側面に気が付かれることが多いと思いますが、操作をしていると、ふと不思議に思える点や、そこに目に見えない共通のルールやテーマのようなものが見え隠れします。コンピュータ科学やリサーチの世界だとHuman Computer Interaction (HCI) といった分野で、人間とコンピュータの対話の観点から様々な研究が行なわれていますが、弊社などは世界中のお客さまからのフィードバックなどにより、実製品として多くの方々に使われるところへ応用されていきます。使っていると「以前と違うので違和感が・・・」と最初は思うのですが、「これは何をしたいのだろう」、「これは誰に使ってもらうためのものだろう」といったことをやはり調査していくと、それなりに資料が見つかります。

2001年の秋ですのでXPの時代のものですが、Win32やCOMのユーザー インターフェイスの技術文書として "Inductive User Interface Guidelines (英語)" (日本語にすれば「誘導的ユーザー インターフェイスのガイドライン」といったところでしょうか)が出されています。技術文書といってもリサーチ向けの文書ではなく、開発者のみなさんにお読みいただくために文書として書かれているようで、その分野の用語はそれほどありません。Inductive UI (IUI) と呼ばれるこのUIとは対極に近いものが、Deductive UI(日本語にすれば「推定的 UI」といった感じでしょうか)として紹介されていますが、これは今日使われている、ダイアログ上にコントロールを貼ったものです。こちらの文書では前者のIUIは、「ソフトウェアは使いづらい」という問題を解決し、後者のDUIは、「これを提示されてもユーザーは何をして良いのかよく分からないだろう」といった論調で書かれています。

 

 リンク先の文書は英語ですが、図も何点かあるので見ると、「ウィザードで作ること」に結論付けられる方も多いのではと思われます。しかし、最初のステップに書かれているようにユーザーの作業(task)に着目することから解析を行なう必要性があり、ウィザードのようなものは表現の手段にすぎないようです。ちょうどこの時期の前後にWebのユーザビリティでも、ある方が「ユーザー中心の考え方ではなく、ユーザーの行動に着目すべき」といったことを書かれていたと思いますが、これはそれなりに話題になっていたことを覚えています。この文書でも「WebのUIはこちらに近い」といったことが最後に書かれているので、着目する点に相似するものがあるのでしょう。

2003年の秋ですが、弊社のUser Experience GroupがAeroのガイドラインのなかで "Picking the Right Degree of Control for User Interfaces (英語)" として「日常の作業の度合い」と「ソフトウェアとユーザーのどちらが主導的に操作すべきか」を比較し、IUIとDUIの双方を肯定しています。IUIが非Web系の今日のクライアントのUIだとすると、これは辻褄が合います。よくWebの開発に携わっていらっしゃるお客さまが、「いままでWindows クライアント向けで作ったものをWebに書き換えて欲しい」という依頼で、お困りであるという話を聞きます。これは、このUIや通信が含まれる操作の特性をご理解いただけないまま、同じものをWebで再現するような要求が発生してしまったためではないかと察します。

2004年の初夏 には、"IUIs and Web-Style Navigation in Windows Forms (英語)" としてWindows フォームでIUIをどのように実現するかという内容が2つに分けられて投稿されています。これらはUIへの投資回収といった観点から始まり、実際に弊社のサンプルでおなじみのNorthwindのデータベースを実装していますが、現行のWindows フォームでの実際の動作を見るには良いでしょう。

ここから先の資料があまりないので、これ以上ご紹介することができないのですが、最近のWPFのショーケースやガイドラインなどを見ていると、IUI、DUI双方の要素を取り入れつつ、表現力豊かで創造性の高いアプリケーションが、これまでソフトウェア開発に関わっていらっしゃらなかったような方々も含めて開発なされていて、ますます楽しみです。

さて、私たちも今年はWPFや ASP.NET AJAXといったユーザー インターフェイスを改良する技術や、それを開発するツールなどをみなさまのお手元にお届けさせていただく作業に携わることになります。これまでも、ソフトウェア開発にデザインという要素はございましたが、今後、ますます多様なお客さまからのご意見を取り入れて、さらにより良いものを作っていかなくてはいけないと思います。日本ではこういった機能が必要だ、こういったところに手が届くようになってくれないと、といったご意見やご要望をぜひ今年もお聞かせ下さい。